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くりかえすなみ・ながれる雲・しあわせなたべもの


by shuwachoco
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テルマ&ルイーズ

フェミニズム映画の決定版《テルマ&ルイーズ》を観る
といってもこれで5回から6回は観ている。
いつ観ても新鮮で、そしてすっきりし、最後ににこれが歴史にならない哀しさを感じて終わる。
         チョコ
映画機関紙に書いたもの。
テルマ&ルイーズ_f0220890_17235839.jpg

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 1991年アメリカ映画。監督はリドリー・スコット、脚本はカーリー・クーリ、主演はスーザン・サランドンとジーナ・デイビス。第64回アカデミー賞脚本賞、第49回ゴールデン・グローブ賞の脚本賞を受賞。90年代のアメリカン・ニューシネマと評される。
 独身のルイーズと専業主婦テルマの親友同士は週末の楽しい旅を計画する。しかしある事件に遭遇したことで気楽な週末のバカンスが思いがけない方向へ展開する。それは女性2人の新たな人生の始まりでもあった。思いがけずアウトローとなってしまった2人に恐いものはない。女性だったらこんな場面で言ってみたかった言葉、こんな時にやってみたかった行動を次々とやってのける。目覚めた2人の表情の変化は、自分を縛っていた枷から自らを解き放ち輝きはじめた女性の美しさに溢れている。

フェミニズム映画の決定打 
 女性必見の映画「テルマ&ルイーズ」は、フェミニズム映画の決定版といわれる。日常の中に埋もれていた自分を見つめ直すのが旅の魅力である。しかしテルマとルイーズが始めたこの旅は新たな自分を見つけて生き直す自分探しの旅となる。
 恋人はいるが自由に生きるルイーズは旅の多い恋人との関係が微妙である。専業主婦でおっとりと何事も自分で決められないテルマは暴君の夫に気を使いながら暮らしている。そんな2人がつかの間日常を離れて週末の楽しい息抜きの旅を計画する。しかしその計画は二人の思いがけない人生へのスタートとなった。テルマは出かけることを夫になかなか言い出せない。その雰囲気から2人の関係が見えてくる。テルマを迎えにいったルイーズは一緒に出発前の記念写真を撮る。日常から離れ、旅への期待で弾けるような2人の笑顔が映っている。この写真は映画の最後を飾ることになるが誰もそれを知らない。


旅の始まり 
 主婦であるテルマは夫に感じていた不満や自分を主張できない弱さは自信のなさからとわかってくる。また一見自由に生きているように見えるルイーズも、強がっている仮面の下の傷つきやすい自分を自覚する。思いがけない旅の成り行きに新たな自分を見つけていく二人。しっかり者のルイーズとおっとり頼りないテルマが実は両方とも自分を生きるための仮面のなかで生きている。そんな二人の仮面を剥がした素顔が素晴らしい。旅の終盤にかかり、もう後へは引けない状態に陥り、それでも前に進むしかないと決めたときにテルマは次のように言う。
「目覚めている気分。こんなに目覚めている気分は初めてだわ。何もかも違って見えるの。不思議ね・・そうじゃない?なにか、希望に向かっているような」
 革命を起こした自分への言葉としてこんな適切な言葉があるだろうか。そしてそのときのテルマの表情は注目に値する。それまでの受動的な美しさから意思が顔の表情をつくる主体的な美しさに変化するのである。テルマもしくは演じたジーナ・デイビスは映画の初めのころのテルマの美しさとはひと味も二味も違うことがわかるだろう。この映画はこの瞬間のために作られた。初めて観た時そう感じた場面であった。
社会が期待する「私」 
 幼い頃「人」は自分の本能に従って生きる時を過ぎ、家庭や学校、社会の中で期待される「私」を生きようとする。女性にとって社会から期待される「女」を生きることは、自分を生きることの否定につながることが多い。それは男性中心の社会構造の中で、社会=男性が期待するのである。本来の社会が期待する人間像があるとすれば、社会的弱者に対する思いやりや普遍的な優しさから生まれる協調性を持つことなどが求められる。しかし、この映画が作られた1990年代から21世紀を迎えた今も男女同権へ向けた社会的な構造に大きな変化はない。テルマは夫から従順な妻であることを求められ、それに従うしかない自分を感じている。ルイーズもまた故郷で受けた性的な虐待に対して自分が受けた社会からの反応に傷付けられたことを消化できないでいる。
 そんな2人は自ら起こした殺人事件に向き合い、自分の意思を確認しつつ旅を続けながら新しい世界を求めようとする。
テルマが新しい自分を見つけた言葉に応えてルイーズはこう言う。
「あんたは最高の友達よ」
「あんたも最高よ。最高の旅だったわ」
「ちょっと脱線したけど」
 映画の最初、テルマがレイプされそうになるシーンで怒りを爆発させたルイーズだが、旅の途中に2人にセクハラたっぷりのチョッカイをかけるマッチョなトラック運転手に肝の座った対応をする。2人の逆襲に胸がすく。弱いはずの女性が自分に向かって攻撃するなんて毛ほども思わない運転手の慌てふためく様子。二つのシーンの女性たちの変化は、銃を持つだけでなく誰にも自由を侵されないと決めた強さを持ったのだ。言い換えれば女性であることの誇りを手に入れた2人なのだ。それを認めあったテルマとルーズは性を超え、人間同志の愛でつながる。固い絆でむすばれ空に向かってダイブする2人だが、自由への代償はこの世に生きられないことなのか。
 旅の途中で出会うヒッチハイカーに扮するのは無名時代のブラット・ピット。2人を追う人間的な刑事がハーベイ・カイテルと凝った配役なのも作品に深みを添えている。
# by shuwachoco | 2014-04-08 17:26 | 映画